余計な前書き 今夏は天候不順のせいで夏山山行の機会を逸した。今秋の紅葉は夏の日照時間が足らずに、平年より残念な事になるだろうと思い、計画すら考えなかった。しかし私の予測は大外れで、アルプスも東北も見事な紅葉だったらしい。夫の後を追って私も「前期高齢者」のレッテルを頂戴し、山に行くことに対して以前のように“がむしゃら”ではなくなった。しかし目が覚めるように美しい山の紅葉風景を、残りの人生であと何度見ることができるのかを思えば、今年のチャンスを無駄にしたことはかなり悔しい。

 気を取り直して11月での山行計画を考えることにした。山と同じくらい温泉も恋しいので、行きたい温泉地を思い浮かべてみた。十津川温泉はどうかな…。そうそう、十津川温泉といえば熊野古道が近いはず。そこでインターネットで熊野古道トレッキングについて調べ、十津川温泉と同様に気になっていた湯の峰温泉にも宿泊して、熊野古道の一部を歩く3泊4日の山旅のプランが出来上がった。

 熊野には1992年の初春に観光旅行をしていた。熊野本宮大社、速玉大社、那智大社及び青岸渡寺の熊野三山は、定期観光バスで巡った。苔むした石畳と杉木立が幽玄な雰囲気の古道(おそらく那智大社傍の「大門坂」)の記憶が鮮明に残っている。また本宮大社に続く「熊野古道」の立て看板の前で写真を撮っていて、そのとき「いつか熊野古道を歩いてみたいね」と夫と話した記憶もある。世界遺産に登録されたときにもいつかは歩こうとの思いがよぎったが、スギ花粉が怖い春は候補地から外されて、熊野古道はたんだん頭の隅に追いやられていたようだ。この機会に思い出して良かった(笑)

十津川温泉へ

11月8日 曇りときどき小雨

走行距離日本最長の路線バス

 東京から十津川温泉へは、鉄道とバスで行くとなると本当に遠い。自宅最寄り駅からのラッシュアワーを避けるために、早朝6時に家を出て、十津川温泉での宿「ホテル昴」到着予定時間は16時20分である。京都で近鉄京都線に乗り換え大和八木駅へ。大和八木駅から奈良交通バスの八木新宮線で宿泊先のホテル昴まで、所要時間が途中休憩を含めなんと4時間35分である。奈良交通バス八木新宮線「八木新宮バス」は、走行距離が日本一長い路線バスなのである。

全長166.9㎞、停留所の数は166、高速道路を使わない路線では、日本一の走行距離を誇る路線バス、それが八木新宮特急バスです。
道中には、日本一大きな村といわれる十津川村、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を駆け抜け、知る人ぞ知る温泉地もたくさんあります。

八木新宮線 / 奈良交通株式会社 »

 八木新宮バスの乗客は旅行者と地元の人らしき人併せても10人にもならず、車内はガラガラだった。大和八木駅からしばらくは市街地を行くので、普通の路線バスのように生活用として利用する人が乗り降りするが、そんなことは構わずバスが発車した途端、京都駅で買ったサンドイッチでの昼食。五条駅バスセンターで初めての休憩があり、運転手さんから公衆トイレの場所の案内があった。新たに旅行者らしき人も乗り込んで発車。

 早起きしたので眠り込んでしまい、気がつくと山間地を走っていた。国道168号線は司馬遼太郎が『街道をゆく』で旅した十津川街道である。うねうねとカーブが続き、道幅が狭い箇所での対向車とのすれ違いでは、バスの運転手の腕前に感歎したりする。少し前の台風による大雨のためか、崖下の熊野川は土色に濁っていた。2011年の紀伊半島豪雨での被害もまだ完全復旧していないのか、あちらこちらで道路工事中である。時折きれいに紅葉した木々も見られる渓谷だが、紀伊山地は常緑照葉樹林が多いのか紅葉は点在する感じである。しかもときどき小雨が降る天気なので、車窓風景はイマイチであった。

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谷瀬の吊り橋

谷瀬の吊り橋
谷瀬の吊り橋

 定刻通りの14時40分に上野地の停留所に到着した。上野地での休憩時間は、谷瀬(たにぜ)の吊り橋の見学時間を見込んで20分である。谷瀬の吊り橋は本来生活のための橋ではあるが、今や十津川村の観光名所でもある。国道を歩いて橋の前にやってきた。夫は独身時代に来たことがあるのに、あまり覚えていないそうだ(笑)

 長さ297m、川面からの高さ54mで、1994年に茨城県の竜神大吊橋に抜かれる前まで、日本一長い歩道吊り橋だった。ちなみに現在は既に日本一ではなくなった竜神大吊橋は、奥久慈男体山の登山の折に渡ったことがある。竜神大吊橋は観光用だし、あまり揺れないので怖くなかったと思う。

谷瀬の吊り橋の解説板
谷瀬の吊り橋の解説板
谷瀬の吊り橋
谷瀬の吊り橋

 往復してくる時間の余裕はないし、怖がりなので心の余裕もない。ほんの20mくらい歩いただけだが、歩く部分の板の両脇は金網で補強され、欄干部分は1メートルくらいの高さに緑色のネットが張られているので、あまり怖さは感じなかった。ただし橋の真ん中まで行くと相当揺れるらしい。

 時間が来て再びバスの乗客となり発車。

 十津川温泉停留所を10分間の休憩後に発車。十津川温泉から少し外れてある「昴の郷」内のホテル昴に到着し、乗り物疲れを感じつつチェックイン。


熊野参詣道小辺路 - 果無峠越 (1)

熊野古道について

 熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)への参詣道の総称を熊野古道という。主に以下の5つのルートがある。

  • 紀伊路:(渡辺津 - 田辺)
  • 小辺路(こへち):(高野山 - 熊野三山)高野山から熊野本宮へ向かうルート 約70km
  • 中辺路(なかへち):(田辺 - 熊野三山) 田辺から熊野本宮に向かうルート
  • 大辺路(おおへち):(田辺 - 串本 - 熊野三山)田辺から海岸線沿いに那智・新宮へ向かうルート 約120km
  • 伊勢路:(伊勢神宮 - 熊野三山)約160km

 紀伊路を除く4ルートと修験の道である「大峯奥駈道」が、「熊野参詣道」として世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に登録されている。

 熊野古道で山中を歩く中・上級レベルのトレッキングコースとしては、小辺路と中辺路に良く歩かれているコースがある。小辺路は果無峠越コースや三浦峠越コースで、中辺路では小雲取越・大雲取越コースや大日越コースである。

 小辺路は高野山から標高1000m級の3つの峠(伯母子峠・三浦峠・果無峠)を越えて熊野本宮大社に至る長いルートである。大峯奥駈道に次ぎ熊野参詣道では最も厳しいルートだとのこと。途中で十津川温泉を通過するので、十津川温泉を起点あるいは終点にして小辺路の一部を歩くのが一般的のようだ。特に小辺路ルートの終盤にあたる、十津川温泉と熊野本宮を結ぶ「果無(はてなし)峠越コース」は良く歩かれているようだ。資料に拠れば「歩行距離15.2㎞、標準歩行時間5時間10分、標準所要時間約7時間」とあるが、急登が続くので厳しいコースらしい。

 晩秋の時期に果無峠越コースを歩くのは今の私たちには無理なので、歩くのは果無越コースの途中までの往復にすることにした。翌日は車で熊野本宮へ移動して、中辺路の「大日越コース」を湯の峰温泉まで歩く。

11月9日 晴れ

 ホテル昴にチェックインした際、フロントから「果無コース」の絵地図プリントを頂いた。事前にインターネット上の資料を集めて、コースの詳細絵地図ファイルはプリントアウトして持参していた。しかし頂いたチラシには「果無コース」のモデルコースとして、下りは林道を歩くコースが載っていた。林道脇にある「めん滝」という滝が見られるとのこと。果無集落の先を行かれる地点まで登り、下りは林道を利用するのも悪くないかも。

標準コースタイム(小辺路果無集落への往復コース) およそ2時間10分

柳本橋(吊り橋) --20分-- 小辺路登山口 --50分-- 果無集落 --60分《めん滝経由の林道で》-- 柳本橋(吊り橋)
コース断面イメージ
コース断面イメージ

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トンネルを抜ける
トンネルを抜ける
熊野古道小辺路の案内板
熊野古道小辺路の案内板

 十津川温泉からこのコースを歩くには、バスで蕨尾まで出なければならない。しかしホテル昴は登山口に近く、徒歩で行かれる。先ずスタート地点である柳本橋に向かう。

 ホテル昴の駐車場の奥にあるトンネルを抜け、車道に出ると右手に熊野古道小辺路についての解説案内板がある。そのまま車道を右に進むとすぐに、吊り橋の柳本橋がある。

柳本橋

柳本橋
柳本橋
柳本橋を渡る
柳本橋を渡る

〔9:05〕柳本橋を出発:長さ90m、高さ10mの吊り橋で、一度に5人以上の通行禁止との注意書きがある。谷瀬の吊り橋と比べたら大したことがないように思えるが、この日は風が若干強めに吹いているので少し不安…。しかも谷瀬の吊り橋ではあった、歩く木道の両端の金網がなくてスケスケ。欄干に当る箇所にも安全のためのネットがなくて、細いワイヤーだけである。

 いざ渡り始めてみると風の影響はないのだが、前を歩く夫がドタドタ歩くものだから上下に揺れる。私は怖くてそろりそろりと歩くので、どんどん夫に離されていく。夫との距離が開くほどに上下の揺れが増幅されて伝わり、船酔いのような気分の悪さが襲ってきた。上下動で橋から跳ね飛ばされそうな恐怖感も湧き、前に進めない。夫に大声でストップを掛け、揺れが収まってから再び進んだ。結構大騒ぎで渡ったので、平日で誰もいなくてマジ良かった(笑)

山腹を回り込んで登山口へ
山腹を回り込んで登山口へ

 柳本橋を渡ったら道標に従って左へ山腹を回り込む形で進む。

登山口
登山口
急な石段を登る
急な石段を登る

〔9:20〕登山口:車道にぶつかった小広い場所に登山口があった。眼下に見える国道168号線の赤い橋も「柳本橋」で、十津川温泉から蕨尾バス停で下車した場合は、あの柳本橋を渡ってこの登山口に来ることになる。

 いきなり急な石段の登りである。坂の脇には民家があり、まだ古道の雰囲気はない。


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